遅咲きの狂い咲き

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zoom RSS 景気拡大でも給料が増えなかった理由

<<   作成日時 : 2009/07/23 08:07   >>

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02年から07年は景気拡大期だったのにも関わらずなぜ景気拡大を実感できなかったのか、つまりなぜ給料が増えなかったのか、についての日銀のワーキングペーパーが発表された。「うちの会社業績伸びているはずなのになんで給料増えねーんだよー」と近年思っていた方、ご一読あれ。

賃金はなぜ上がらなかったのか?
─ 2002〜07 年の景気拡大期における大企業人件費の抑制要因に関する一考察

【要 旨】
本稿では、前回の景気拡大期(2002〜07 年)において、大企業が業績好調にも拘らず、人件費抑制姿勢を維持してきた背景について、上場企業のミクロデータを用いて実証的に考察する。具体的には、上場企業の人件費を抑制した要因として、@企業が直面する不確実性の増大、A「世間相場」の低下、B株主からのガバナンスの強まり、C海外生産・オフショアリングの拡大、という4つの仮説を検証する。

大学か何かでちらっと統計学をかじった人なら(全部は理解できないと思うけど)アレルギーなく読めるとは思うので本文を読むことをお勧め。そうでない人は、僕が紹介する結論だけ読んで「何でも知っているフリ」をしてください(僕のようにね!(笑))

サンプルはいざなぎ景気が始まった65年から06年までの(継続的に上場している)上場企業のデータ。過去の景気拡大と比べて00年代の景気拡大と賃金の関係においてどのような特徴があるかを検証している。

02年から07年の景気拡大。「企業収益が大きく増加」し「労働需給のタイト化」も進んだのに、なぜ賃金や人件費は増大しなかったのか―。

まず実際にそれが事実なのかどうなのか、グラフを見てみましょ。

まずは製造業の利益と人件費のグラフ。
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日本の場合は人件費は「固定費」的性格が強いので特に利益の増減に対して遅れて調整されるのだが、いくらなんでも過去最高益を叩き出しているのにもかかわらず遅れるどころか「減っている」というのはどういこと?と思ってしまう。

同様に労働分配率(付加価値に対する人件費の比率)も調整スピードが遅いため景気の拡大とは逆の動きをするのが一般的だが、いくらなんでも今回の労働分配率の低下は激しすぎやしないか、と。
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市場の労働供給が豊富だったから安く採用することができた?? いやいや、企業も雇用の需給はタイトだったと言っている。
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このグラフは右に行くほど「人員過剰」、左に行くほど「人員不足」。縦軸は給与総額の前年比なので人が足りない時ほど賃金を多めに出さないと労働力を確保できないわけで、従って両軸での自然な分布は左上から右下さがりの分布になるはず。ところが近年は人員が年々不足していると言いながらも給与総額は減っているという一見奇妙な結果になっている。

これを合理的に説明してみようではないか、というのが今回の日銀のレポートなわけだ。

では上に掲げた仮説を一つずつ見ていくことにするが、@の「企業が直面する不確実性の増大」については、不確実性を表わす指標として労働生産性上昇率等の「ボラティリティ」を個別企業レベルで計算している。

結果はこのグラフ、1人あたり生産性の成長率の標準偏差
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読み方としては、「ボラティリティは70年代から90年代半ばにかけてゆっくり低下したのち上昇に転じている」、「上位25%の企業は上昇している一方で下位25%はそれほど変化していないことから、生産性が高い企業でのボラティリティ上昇が平均的ボラティリティの上昇を招いている(中央値はそれほど上昇していない)」と言ったところ。

ここから導き出される可能性は、「近年の好景気は一部の生産性の高い会社によって牽引されてきたが、個別企業にブレイクダウンして見ると毎年の利益の振れ幅が上昇していたため、給料増加に踏み切れなかった」という姿だろうか。

日銀が検証した二つ目の仮説は「世間相場の低下」。つまり他の企業(同業・同規模の企業)の給与水準を参考に給与水準を検討することが多い中で、世間の相場が低下していたと「認知していた」のではないか、という仮説。ここでは世間の相場は「企業間の平均ではなく『最頻値』によって決まる」という考え方をとっている。(つまり飛びぬけて高い給料をもらっている会社は無視して、「一般的」な企業が採用している水準を参考にしましょうや、という考え方)

ここではグラフの引用は割愛させてもらうけど、結論としては、昔は世間相場(最頻値)の方が平均給与よりも高かったため世間相場は平均給与を押し上げる役割を果たしていたが、近年は世間相場が平均よりも低いため、世間相場は全体の給与を下げる方向で作用しているとなっている。

つまり「産業全体で見れば一部の『勝ち組』と多数の『負け組』で構成されており、結果として数が多い『負け組』の給与水準に引っ張られて『勝ち組』企業であってもなかなか給料が伸びない」という可能性を示唆している。

日銀3つ目の仮説は、株主からのガバナンスの強まり。これは直感的にもわかりやすいかな。要は「株式持合やら金融機関による株式保有が減ってきた一方でモノ言う外国人株主が増えてきたことから、従業員の利害に比べて株主との利害(つまり利益増加)が相対的に強くなってきた」、という仮説。

ここでは外国人株主比率の前年差を説明変数、労働分配率を被説明変数として回帰分析した結果、統計的に有意な結果が出たとなっている。

4つ目の仮説は海外生産・オフショアリングの拡大により、本国親会社の賃金の押し下げ圧力として働いてきたのではないか、という仮説。

ここでは海外従業員比率を説明変数として労働分配率の変化の説明を試みているが、2000年までは統計的に有意(1%水準)な結果が出ているがそれ以降は10%水準にまで下がってきている。つまり昔は海外生産の拡大で日本国内の賃金抑制が説明できたが、00年以降では海外生産は賃金低下の要因とは必ずしも言い切れないということだ。

理由は仮説でしかないのだが、00年までに賃金格差が随分と狭まってきたか、(賃金が安い)海外の非熟練労働者の取り込みは00年までに一巡し、現在の拡大はむしろ熟練労働者の増加が主要要因である、という可能性も言えるのかもしれない。

さてさて、日銀による仮説検証はここまで。
仮説はどれももっともらしく語られてきたものが多いが、それが定量的に証明されているという点ではよいレポートかなと思う。

特に1つめと2つめの結論なんかは、頻繁に語られてきた「国際的な輸出依存の製造業のみが利益をだしてきたもののその他の中小製造業やサービス業は業績も伸びておらず苦しい」という近年の産業構造にフィットした結論となっているようにも思われ、より説得力を持って語れそうだ。

最後に、これは日銀も検証しておらず仮説の提示にのみに留めているけれど、賃金が上がらなかった要因として組合との労働争議件数の著しい低下があり、その背景として組合員の間で低賃金の非正規社員の存在が意識されるようになったことが影響しているかも、としている。同様の仕事をしている非正規社員が著しく給料が低いのに自分たちだけ給料増加を望んでも交渉上勝てないということかな?

日本は非正規雇用者の比率は先進国の中でも最も高い部類で、しかも賃金格差はダントツで大きいようだ。いかに正社員の給料は非正規社員の犠牲で成り立っているか、ということだ。(それについてはこちらのエントリーも参照
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ということで、「なんで給料が増えねーんだよ」と書いて釣っておきながら、最後には「でもあんたたち実はもらい過ぎなんじゃない?」と言って締めくくるという、嫌らしい締めの言葉で終わっておこう(笑)

(いつも言っていることを再度言えば、もらい過ぎなのは若い世代ではなくて、働かないけれど給料が高い「上の」人たち、ということなんだけどね)

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