遅咲きの狂い咲き

アクセスカウンタ

zoom RSS 勘違いだよ、日本のCSR(企業の社会的責任)

<<   作成日時 : 2009/06/27 20:08   >>

トラックバック 3 / コメント 2

最近CSRについてのエントリーを何度か書いたが、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)と言ってもコンセプトがぼんやりしていて何となく胡散臭く感じる人もいるだろうし、知っているつもりでも、ほぼ全ての日本人はCSRを誤解していると言っても過言ではない状況なので、そもそもCSRとは何かについて書いておくことにする。

今日のエントリーはこちらの本で書かれている内容をベースにしているので、興味がある方にはお勧め。

ヨーロッパのCSRと日本のCSR―何が違い、何を学ぶのか。
日科技連出版社
藤井 敏彦

ユーザレビュー:
CSRの源流に迫るC ...
CSRの本質を分かり ...
EUに関心がある人必 ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ



まずCSRとは何かについて。
それは色々なところで定義されているのだが、2004年に開かれたMultistakeholders Forumでの一文がわかりやすい。

CSR is the voluntary integration of environmental and social considerations into business operations, over and above legal requirements and contractual obligations.


一語一語が重要な意味を持っている。

Integration...into business operation = 本業であるビジネスに統合するものである。儲かったお金を誰かに寄付するだとか、本業とはまるで関わりのないところで貢献しようとするのはCSRではない。儲けたお金で何をするかではなく、その儲け方そのものの在り方が問われているのがCSRである。

environmental and social consideration = 対象となっているのは環境問題だけではなく「社会問題」も含まれているのであり、CSRは持続的成長とは環境と経済成長の二つのバランスをとることである、とは言っていない。ヨーロッパ企業のCSRレポートで触れられているのはほとんどが社会問題についてであり、環境問題の取り扱いは実は小さい。

over and above legal requirements and contractual obligations = 法律や義務を「超えて」自発的にビジネスに統合していくものであって、法令遵守のような当たり前の義務は(もちろんそれ自体が簡単な話ではないのだが)CSRとは呼ばない。

CSRという概念は、深刻な失業問題に直面していた90年代のヨーロッパで生まれたものである。社会的・経済的に排他されていく層を作り出しては貧困や犯罪などの大きな社会不安を生み出し、持続的成長ができなくなる、という危機感が発端である。 それが雇用確保であったり女性や高齢者も働きやすい職場づくりへの運動などへと繋がった。現在のヨーロッパのCSRが発展途上国での人権問題にシフトしているのも、CSRが人の問題を扱うというところからスタートしていると考えれば流れが理解しやすい。

一方でアメリカのCSRは、フィランソロピー(≒寄付行為)と地域貢献という2つの要素で大括りで説明することができる。

アメリカの歴史は、少しずつ居住地域を拡大しそれぞれの地域の連合体として国が成立したのだと考えれば、地域社会へのこだわりも理解できそうなものだ。CSRが寄付行為を中心としているのも、より力があるものが成功を収めるというアメリカ的「自由・公平」の考えに照らし合わせれば、お金儲けのプロセスに制約を設けるよりも結果として儲かったお金を(一部の成功者が)還元するという考え方の方がフィットしているのかもしれない。

想像に難くないが、ヨーロッパはこのアメリカ式「CSR」を激しく非難している。もちろん寄付行為そのものは批判されるものではないが、寄付行為をしているから社会的責任を果たしているんだというトーンの意見に対しては、それは社会的に「無責任」な方法で儲けたお金を一部社会に還元することで罪の緩和をしているに過ぎないという冷ややかな見方がされる。

地域貢献という考え方にも否定的。これも地域貢献そのものを否定するのではないのだが、厳密には「地域」そのものは「問題」ではなく、その地域に存在している具体的な問題こそが問題なので、地域貢献という概念自体があいまいなのだ。それらを個別に認識し解決する方法を業務に統合していかない限りは、単にお金を地域に投げてあとはそっちでやってね、という、解決を地域に丸投げしているに過ぎないとみなされる。

そう言えば、以前自動車メーカーのGMが乳がん撲滅のための寄付をしているという話を聞いたことがあったが、寄付はいいんだけどなぜGMが乳がん???と思ったものだ。利益から一定の金額を寄付するという話もよくあるが、利益が出なければ寄付もしないという行為をどう評価したらいいかは正直難しい(少なくともヨーロッパの人はそのあり方を軽蔑しているようだ)。

翻って日本のCSRはどうか。

まとめると、日本のCSRは「環境問題」「地域貢献」「法令遵守」の3本柱になる。

環境問題が中心というのは、50年代に水俣病やら四日市ぜんそくなど、経済成長の負の側面としての公害問題を経験した歴史を考えれば理解しやすい。他国に比べれば社会問題や安全保障問題など目立った問題もなく、日本の持続的成長の最大の脅威は公害問題であると当時は捉えられていたのであろう。現在企業のトップにいる世代はかなり鮮明にその頃の記憶があるだろうし、30代の僕ですら小学校以降教科書で繰り返し公害の問題とその深刻さについて触れる機会があった。日本人が肌感覚として環境問題に敏感であり、結果としてドイツと並んで(あるいは上回って)環境対策のトップ国として位置づけられるのはよく理解できる。

地域貢献というのは、日本がヨーロッパではなくアメリカからCSRという概念を輸入したという証左であろう。アメリカとの経済関係が深くなるにつれ、日本はアメリカの経済成長に貢献しているという自負を持ち始めていたのだが、ひとたび日米貿易摩擦が80年代に火を吹くと実は日本企業はアメリカの地域社会にまるで受けいられていない存在だったと痛感させられたという苦い経験がある。それ以降日本企業はアメリカにて地域との結びつきを強める活動をしてきたし、結果としてその流れが日本にも輸入された。きっかけは違えど昔流行ったメセナや経団連の1%クラブみたいなものもその流れの一部なのかもしれない。

法令遵守をCSRと呼ぶのは日本特有だろう。たまたまCSRという言葉が日本に輸入された際、企業スキャンダルが横行していたために法令遵守をCSRというパッケージの中に入れ込むことで都合よく使われたに過ぎない。法を超えて企業は何をするかというのがCSRなので、法令遵守をもってしてCSRと呼んでいる日本企業は本来はまるでおかしい話をしている。

こうして日本企業の「CSR」を見ていると、本来のCSRとは何かという議論が欠落して、日本独特のパッケージとしてのCSRが独り歩きしているという様がよくわかる。そもそもヨーロッパでは政府や企業に働きかけるような動きからスタートしているため、CSRと政策論議は切り離されていない。また、不思議なもので、(自分も含めてだが)日本人は社会問題に対する意識が極めて低い。例えば90年代にナイキがインドネシアで児童労働をさせていたとして不買運動になるまで発展した事件でも、日本人は気にもすることなくナイキブームに沸いていた。セクハラなどの事件の受け止め方も、欧米に比べると極めて鷹揚な受け止め方になっている。閉じた世界に生きていると弱者を守らなくてはいけないという発想が出てこないものなのだろうか?

ヨーロッパはヨーロッパ、日本には日本のCSRがあるんだと言い切ってしまえないこともないが、まるでCSRとは何かという議論、特に政策に結びつく議論をしてこなかった日本としては、(日本のCSRを捨てる必要はないが)学ぶべきものは学ぶという姿勢が必要だろう。

個人的には、特に労働問題を中心として発展してきたヨーロッパのCSRからは日本が学ぶべきものがかなりあると思う。熱くなるのであまり長くは書かないが(笑)、労働問題ほど日本が持続的成長をしていく上で驚異になるものはないだろう。

「日本は従業員に優しい家族主義、人本主義の国である」という「幻想」を捨て、現実に存在している日本の社会問題を見つめ直すべき時だ。終身雇用が日本の伝統だというのは一部のエリートが都合よく使うまやかしだ。戦後の成長期にたまたま安い労働者を確保するために企業にとって終身雇用は都合がよかっただけの話であって、別に人を大事にした結果じゃない。社員が堂々と育児休暇を取れないような終身雇用で胸を張るのもおかしい。終身雇用は本質的には男性正社員のためだけに存在していると言っていいだろう。見えているところ、見たいところだけを見て「日本の会社は従業員を大切にする」と言ってしまうのはいかがなものか。

正社員を守るために新たに生み出された低賃金労働者である派遣社員という層は、今後格差が固定されたまま生きていく他ない。彼らの問題は彼らの努力不足ではなく社会システムの問題だ。大企業に勤めている「若手社員」が同世代の非正規雇用者を「自己責任」と切って捨てるのは、年功序列という既得権益に取りつかれた企業のトップ層やメディアの価値観にうまいこと取り込まれているようで残念な話だ。同一労働をしても同一賃金がもらえず、格差が固定し、家族を育てるに十分な収入も得られず、それが経済成長鈍化や社会不安につながったりしたら誰も得しないのは明らかなのに。労働組合も正社員の意見を代弁しているに過ぎず、格差問題ではまるで役に立たない(どころか逆効果)。

環境問題でも人権問題でもなんでも企業は語ればいいのだが、企業が本当に社会的責任を果たそうと思うのなら、まずは従業員から始める以外にないと思っている。従業員を大切に扱わない企業がいかに利益を生みだそうが「社会貢献」しようが、そんなの褒められた話ではないし持続的成長にもつながらない。

話がそれてきたのでこの辺で。日本にCSRが根付くには色々と障害があるのも確かだが、少しずつ本来の意味でのCSRを議論していく土壌が培われていくことや、幻想を捨てて現実と向き合う機運が生まれることを願ってやまない。この閉塞感が溢れる現代において、今始めずにいつ始める?

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
景気拡大でも給料が増えなかった理由
02年から07年は景気拡大期だったのにも関わらずなぜ景気拡大を実感できなかったのか、つまりなぜ給料が増えなかったのか、についての日銀のワーキングペーパーが発表された。「うちの会社業績伸びているはずなのになんで給料増えねーんだよー」と近年思っていた方、ご一読あれ。 ...続きを見る
遅咲きの狂い咲き (Oxford MBA...
2009/07/23 08:07
悪性腫瘍,良性腫瘍,子宮がん,子宮がん治療,子宮がん検査,初期症状,おりもの,がん細胞,ウイルス,ホ...
悪性腫瘍と良性腫瘍や子宮ガンはガン治療が発達しガン検査で初期症状を発見できます。おりものやがん細胞、ウイルス、ホルモンなどについてお伝えします。 ...続きを見る
悪性腫瘍と良性腫瘍
2009/08/18 04:23
子宮けいがん,子宮がん,子宮がん治療,子宮がん検査,初期症状,おりもの,がん細胞,ウイルス,ホルモン...
子宮けいがんは子宮ガン治療が発達し子宮ガン検査で初期症状を発見できます。おりものやがん細胞、ウイルス、ホルモンなどについてお伝えします。 ...続きを見る
子宮けいがんの治療
2009/08/20 11:34

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
AKさん、こんにちは。

CSRについて考えれば考えるほど、分からなくなってしまうのですが、やはりこの定義を理解できていないからでしょうか。
最後の、
>まずは従業員から始める以外にないと思っている。
というのは妙に納得しました。
言い方は悪いですが社会問題として一番旬だと思いますし、何せ最も身近な利害関係者ですし。

いつもAKさんのCSRのエントリーには学ばされます。
ありがとうございます。
Kyo
URL
2009/06/30 00:16
定義を意識すれば議論の枠は規定できるようにも思いますが、個別具体的にすっきりした答えが出ようがないのがCSRなので、逆にいえばCSRがわかっているなんて言う人にあってみたいくらいの話です。

ただ、生活に困っている、あるいは心がまるで満たされていない人に、他人の幸せに思いを馳せて(義務を越えて)何か行動せよということには無理があるとは思いますので、従業員から始めようと言うのは真理ではないかと僕は思っています。従業員を大切にしない会社が「社会貢献しましょう」と言っても従業員はしらけるだけではないかと思いますし。

世の中には「物理的には」会社というものは存在しません。あくまでも人の集合体です。従業員個々のインテグリティが出発点だと思ってます。
AK
2009/06/30 01:08

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
勘違いだよ、日本のCSR(企業の社会的責任) 遅咲きの狂い咲き/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる