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zoom RSS [書評] 酒井譲「『日本で最も人材を育成する会社』のテキスト」

<<   作成日時 : 2010/01/16 16:12   >>

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ベストセラー「はじめての課長の教科書」の著者としてお馴染みの酒井譲さんの新著が本日発売。人材育成に興味がある方、特に一度でも人材育成について勉強した/考えたことがあるという方にこそお勧めしたい良書。


「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (光文社新書 439)
光文社
2010-01-16
酒井穣

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光文社新書から出版された同書、200ページ程度の新書であり、難解な言葉や理論も「一見」なく、文体もですます調で読みやすいため、さらっと読めばすぐに読める。触れられている内容も、人事について勉強したことのある方や、MBAコースに在籍したことがある方にとっては、すべてとは言わないまでも、どこかで聞いたことがある話が多い。

じゃあ、あえて読むほどの本でもない?いやいや、とんでもない!数々の人材育成の理論についての知識をつけることが本書の目的ではない。「使えない」人材育成理論を知って満足したいだけの人は、分厚い本を読んで悦に入ればいい(あるいは、本書を読んだあとに、それぞれの理論や手法をより深堀りするために読めばいい)。

本書の価値は、まずその目次に表れている。
第1章 何のために育てるのか(人材育成の目的)
第2章 誰を育てるのか(育成ターゲットの選定)
第3章 いつ育てるのか(タイミングを外さない育成)
第4章 どうやって育てるのか(育成プログラムの設計思想)
第5章 誰が育てるのか(人材育成の責任)
第6章 教育効果をどのように測定するか
第7章 育成プログラムの具体例

たとえば、僕が過去に読んだ中で最も人事分野を俯瞰した名著だと思っている今野浩一郎(著)「人事管理入門」と比べると、その特徴が際立っている(人事管理全般を説明する同著と比較するのは必ずしも適切ではないとは分かっているが、あえて比較してみる)

マネジメント・テキスト 人事管理入門<第2版>
日本経済新聞出版社
今野 浩一郎

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人事管理のとらえ方
戦略・組織と人事管理
社員区分制度と社員格付け制度
採用管理
配置と異動の管理
教育訓練
人事評価
昇進管理
報酬管理
福利厚生と退職金・企業年金
労働時間と勤務場所
生活と仕事の調和
雇用調整と退職の管理
パートタイマーや外部人材の活用
労働組合と労使関係

後者は人事にまつわる機能や役割で区切った章立てになっているのに対し、前者は人材育成に必要な視点から、あるべき思考の順番に基づいて整理されているのだ。

単純に、わかりやすいタイトルをつけただけと思うなかれ。

酒井さんが本書のあとがきで「戦略の立案」よりも「戦略の実行」がより重要になってきていると指摘し、その「戦略の実行」こそが「ヒトの問題」であると書いているが、同様に、ビジネス書は立派な知識を得ることが重要なのではなく、読後にひとつでもふたつでも学んだ理論を実践できなければ意味がないのだ。

各章で設定された疑問に対し、数多くの人材育成に関連する理論を、極めてシンプルに、そのエッセンスをわかりやすく伝える形で本書は展開していく。知識をつけるためではなく、さも「明日から使えるようにこれだけは覚えて帰ってね」的なスタンスで。

そして、人材育成の考え方について順を追って理解した後、最後に「育成プログラムの具体例」で締められているのがもう一つの価値だ。どこかで聞いたことがあるものもあれば、ひねりのきいた面白いものがあるが、ここでのポイントは、人材育成の考え方を理解したあとに最後に「なるほど!」と思わせて締めることにある。

具体例の解説に重きを置くわけでもなく、どちらかというとヒントを与え、あとは自分の組織にマッチするように取捨選択/思考錯誤してみてね、という程度の記載であるというのもかえって効果的。本書で学んだ理論を参考に独自の具体例を考えるきっかけになる。

同書は学術書ではなくビジネス書である。3日かけて読んだものの翌日からの仕事は何も変わらない本よりも、1〜2時間で読んだ直後に、よし、これをやろうと思えるものがある本の方がはるかに価値が高いのだ。そしてその目的において、本書の展開は見事としか言いようがない。

個別の理論や手法があまりにもシンプルな記載になっているので、読んでいる間に物足りなさを感じたり、数々の突っ込みが頭に浮かぶ人もいるだろう。ただ、だからといって内容が薄いということではない。紹介されている数々の理論や考え方を深堀りしたい人は、紹介されている参考文献と行ったり来たりすればいいのだ。人材育成の全体像を、その目的意識に働きかけながら記憶に残し、実践に移す足掛かりを与えるこのシンプルさと構成こそが、本書の価値なのだ。

費用対効果、時間対効果が最高の良著。オススメ。

(追記)どこかで見たことがあるような理論が並んでいる、というような印象を持たせる書き方をしてしまったが、よくよく考えるとそれは僕がたまたまMBA直後だからなわけで、実は様々な人材育成にかかる理論を体系的に紹介している書籍はありそうでないような気がする。つまり、上で書いている以上にオススメ(笑)

以下、余談。
酒井さんの考え方に「そうそう、僕の考え方と同じ!」と共感するところはたくさんあったのだが(例えば冒頭の「このままでは従業員は路頭に迷っていく」という環境認識のあたり)、印象的だったのは「いつ育てるか」の章の退職者に対しての「人材育成」。

マッキンゼーが、その「卒業後」にマッキンゼーの人脈を駆使して大活躍をし、それがマッキンゼーの名声を高めるという好循環を生んでいる中で、酒井さんは最初の会社を退職する際に「裏切り者」の扱いを受けたという。

これは僕も経験していて、僕が銀行を辞めた時は、(特に本部の極端な部署にいたのだが)辞める時はお別れ会どころか辞めることすらアナウンスされず、来なくなってから辞めたことが噂される、というひどい部署だった。こんな組織では中途採用や退職者を呼び戻すなんてことはできるわけもなく、マッキンゼーのように退職者同士のネットワークが価値を生むということもなく、僕のようにネガティブな話を公の場で語る人間が生まれるだけになる(笑)

Twitterなんかを見ていても、元銀行員の銀行批判の激しいこと!(笑)就職活動する学生は、その会社内のロールモデルを見ると同時に、退職者からの意見も聞いた方がいいかもね。

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